一三、甲寅の元旦。進退格 海天鬱として妖氛暗し 忽ち春風に遇ふて心更に紛たり 未だ見ず老榴の水面を防ぐを 誰か堅艦を将って江門を塞がん 身を挺して補ひ難し大東の武 眥を決して徒らに睨む亜墨の雲 是れ書生日を玩するに非ず 且らく慣例に依って芳に対するのみ。
一四、甲寅の春、罪を獲て将に郷に帰らんとし、象山先生に留別し奉る。 粗率自ら知る漏遺多きを 一朝辜を獲るも又誰をか咎めん 故山父に伴ふ豈楽無からんや 此の地君に離る太だ悲しむに耐へたり 学は東西を併す志何ぞ挫けん 術は文武を兼ぬ意聊か期す 索居偏に恐る驕惰を長ぜんことを 領を引いて遥かに望む規誨の辞 当時、師門の、挺身して禁を犯し、罪を幕府に獲る者、西に松陰あり、東に雙松あり。 並びに奇男子と為す。
一五、帰郷後偶作 闊何ぞ堪へん渉世の途 故園に帰去して樵夫に混ず 学を興し兵を練る謀竟に左ふ 山に登り水に臨む枉げて聊か娯しむ 豈阨窮の為に国是を忘れんや 唯々期す神武辺虞を鎮めんことを 耿々として胸中竟に熄み難し 明窓日日兵符を読む
一六、又 茅堂に高臥して固窮に甘んず 幽人の趣致誰か相同じうする 独り黄ありて能く我を慰む 朝な朝な来り囀る竹林の中
一七、感懐 江門の消息近ごろ何如 伝へ道ふ仏英異図を萠すと 未だ至らず霊威殊域を動かすに 復た憂ふ羶穢神区に迫るを 強兵誰か識らん真訣あるを 籌海奚ぞ能く遠謀を定めん 空しく此の懐ひを抱いて孰に向ってか説かん 東天を一望して長吁を発す