一八、偶作 束髪道林に遊んで 今に二十祀() 良図君を輔くる無く 自ら省みて太だ恥づるに堪へたり 則ち太だ恥づるに堪へたりと雖も 志尚ほ烈士を慕ふ として古人を喚び 兀兀として古史を読む 澆季軟熟を喜び 耿介或いはりを負ふ 若し中情をして直ならしめば 淪躓何ぞ駭くに足らん
一九、又 事業素志と違ひ 出盧年将に終はらんとす 余、年二十七、諸葛孔明茅盧を出づるの年なり。興懐疇昔を思ひ 慙愧又何ぞ窮まらん 道芸両つながら研精し 体用始めて貫通す 文武攻治を兼ね 乱理功を奏するに足る 我が師嘗つて懇ろに誨へ 吾奮って其の蹤を追ふ 今に至るまで一も成る無く 徒らに心胸の熱きを覚ゆ 平素期する所、古名臣に在り。意境甚だ高し。
二〇、晩春の作 屋外三丈の雪 須臾にして悉く消融す 梅桃相継いで発き 早く已に亦空と為る 光景少しくも駐らず 譬へば帆の風を受くるが如し 語を寄す年少子 研脩功を停むる莫れ
二一、初夏の作 東皇既に退避し 炎帝八紘()を統ぶ 千林残紅無く 万山皆深青 顆顆梅子結び 簇簇竹孫栄ゆ 藕葉始めて泥を出で 松花悉く黄を落す 家圃漸く蔬を栽ゑ 村田将に秧を挿さんとす 万物方に喜美 之を観れば独り情を楽しましむ
二二、戯れに鍾馗の図に題す 労勤は禎瑞を召き 安佚は妖氛を致す 鎮圧本我に存す 須らく此の君に依るべからず
二三、夏日偶作 庭前の脩竹幾千根 翠影涼を送って小軒に臨む 尽日人の荻戸を叩く無く 細かに周易を観て黄昏に至る
二四、初秋の偶作 雨収って南苑熱威微かなり 正に是れ午眠初めて覚むる時 松梢淅瀝として秋声度り 満院の清風衣に冷やかなり