三竿日上って露初めて消え 風度って前林影動揺 鳥語閑閑として竹外に起り 蝉声として松梢に在り 園は然く小なりと雖も光景に富み 境は甚だしくは幽ならざれども叫囂を脱す 随処従来至楽存す 自ら斂(歛)退に甘んじて衝茅に臥す
三一、懐ひを書す 幾年か誦読して太だ辛酸 茲の際滋々(ますます)知る力を得ることの難きを 道術偏へに期す世用に供するを 文章豈独り佳観を作(な)すのみならんや 研精唯々願ふ朱元 頓悟何ぞ追はん王伯(白)安 至理従来一是に帰す 推窮すれば須らく此の心寛きを要すべし
三二、夏日即事 五月黄梅の雨 旬(句)を兼ねて少しくも晴れず 為に問ふ信江の水 今朝幾尺か生ずと
三三、山水を画くに題す 畳嶂天を摩して起り 澄江点塵無し 林門茅屋小なり 応に読書人あるべし
三四、蘭 根を託して幽に在り 素より絶塵の姿を負ふ 一任れ樵夫の棄つるは 清香々自ら知るのみ
三五、菊 霊均と元亮と 仙し去って已(己)に多時 籬落秋風の裡 清芬誰が為ならんと欲す
三六、家翁を懐ひ奉る 蕭蕭として夜雨懸り 閣閣として蛙声聒し 独り自ら隠憂あり 展転して眠り成らず 我が翁霊域に遊び 遙かに千里の程を隔つ 家翁、時に湯沢温泉に遊浴す。 今夜山閣の上 何ぞ故園の情に堪へん
三七、象山先生を懐ひ奉る 先生今泰斗 妙契夐かに群を出づ 心は宇宙の理を包み 眼は東西の文を破る 信中千里の水 越北百層の雲 何の日か一()枝 玄論再び聞くを得ん 嘗つて此の詩を象山先生の処に観る。指を屈すれば三十余年なり。恍として隔生の如し。
三八、秋暁、三五七言 虫薨薨 鶏 煌煌として明星上り 滾滾として露華滋し 缺月一片猶未だ落ちず