久病無聊興趣空し 喜ぶ君が千里詩筒を寄するを 想ひ得たり山村寒夜の雨 一の芳酒英雄を話すを
四四、柳士健に寄す 多年病に臥して茅衡を鎖す 風光の便と生を隔つるに似たり 淡煙疎雨江村の暮 羨む汝が酔吟世情を忘るるを
四五、山楚香に寄す 鴻鴈声は寒し蘆荻の湾 霜零ちて林樹葉(爛)斑たり 蒼竜岡上秋応に好かるべし 一月に瓢を携へて幾度か攀づる
四六、偶作
荒山淪落して幾秋風 首を回らせば東遊夢已に空し 江門若し旧知の問ひに値はば 為に道へ疎狂心尚ほ雄なりと 廃黜多年、空しく雄志を懐く。
四七、冬暁 紅暾将に上らんとして暁雲回る 凛冽たる寒風面を刮って来る 昨夜長岡城畔の雨 花尊山上雪(ゆき)堆を為す
四八、冬日即事 景光惨澹として歳華傾く 此の際幽人太だ情を苦しむ 一臥幾年猶未だ起たず 復見る積雪茅衡を没するを
四九、春日旧に感じて、長沢伯明、川島子樂に似す辛酉。 東武の同遊跡已に非なり 往事を追思すれば夢魂飛ぶ 梅児墓畔落花の雨 何の客か江楼酔を買うて帰る
五〇、感を書す 良辰殊に覚ゆ憾情の多きを 三十余春夢裡に過ぐ 疇昔雄飛して壮志を騁せ 如(加)今雌伏して沈に苦しむ 憂ひは家国に存して道達する無く 身は災患を歴て心磨せず 杯酒愁を破るは願ふ所に非ず 香を焚いて端坐し天和を味ふ 一片の忠誠。