五一、又 内懼外憂一端に非ず 人情卻(郤)って目前の安きを要(もと)む 誰か当に今日中流の砥として 万丈の狂瀾も砕き得ること難かるべき
五二、長沢赤水に寄す 末路の工夫唯々自ら寛うするのみ 下僚豈身の安きを愛する莫からんや 好し博虎裂狼の手を将って 赤水膂力人に絶し、博く武技を綜べ、最も拳法に長ず。 卻(郤)って嘲花罵月の翰を弄す 膝下の児孫余楽あり 欄前の山水佳観足る 故人已(己)に白雲に乗じて去る 新詩を賦し得るも誰と与(とも)にか看む 赤水は先陣の韻侶なり。先人在るの日、唱酬殆ど虚日無かりき。
五三、重陽病に臥し、伯明に簡す。 六年辜負す菊花の杯 偶々佳辰に値ふて々自ら哀しむのみ 知る汝が登高逸興多きを 詩あらば明日寄せ将ち来れ
五四、秋日偶作 城外の村村秋穫忙し 満郊已に是れ繁霜を降す 階前喞喞として虫響悲しく 天際嗷嗷として鴈行急なり 学を草茅に講ずるは吾が願ふ所 成を廊廟に秉るは孰か能く当らん 病来殊に覚ゆ俗情の遠きを 反覆経を窮むれば味ひ自ら長し
五五、阿部宗達(そうだつ)の江都に之くを送る。進退格 前路惟々当に此の身を愛すべきのみ 江城遥かに隔つ幾 灯に対して夜聴く二居駅名の雨 策を振って暁に穿つ三国嶺名の雲 疇昔定めて同学の士多かりしも 如今或いは旧知の人に乏しからん 菊花楓葉行々応に好かるべし 誰か復た瓢を携へて去って君に伴はん
五六、壬戌の春作 七年蓐に臥して起くること猶ほ難し 有志時無く徒らに神を苦しむ 誰か料らん台当日の事 如今乃ち復た吾が身に及ばんとは 台卿は趙岐の初字。岐年三十余にして重病あり。蓐に臥すこと七年なり。事、後漢書本伝に詳らかなり。
五七、人に答ふ 病衰殊に覚ゆ才鋒の鈍るを 慷慨追ひ難し古哲の蹤 身は是れ泥蛇沈を分とす