日月光輝を失ひ 山河妖に満つ 封豕敢へて猖獗にして 聯群海潯に嘯く 捕獲謀々誤り 凶毒漸く将に深からんとす 切に憂ふ蒼生の禍を 濁醪斟むに堪へず
七五、冬日即事 遥山雪已に降り 万木葉咸く零つ 偏へに愛す枯林の際 老松旧に依って青きを
七六、冬夜 苦雨連旬晩に漸く晴れ 書灯未だ点せず坐して笙を吹く 忽ち看る林外寒月昇るを 樹影槎としてに写って明らかなり
七七、又 霜気稜稜として草亭を侵し 破衾水の如く夢頻りに醒む 落葉風を帯びて響蕭颯たり 坐(そぞろ)に疑ふ夜雨前庭に灑ぐかと
七八、又 氷結して水声無く 坐ろに知る霜気の酷(きび)しきを 庭朔風度り 戞戞として寒玉を鳴らす
七九、王昭君の図に題す 妖艶謾りに誇る絶世の姿 粉真を乱る曾つて知らず 虜に嫁すの詔下って驚き且つ悔ゆ 此の禍自ら取る将た誰をか怨みん 昭陽一たび去って返るを得難し 旧院の花木夢空しく馳せ 穹盧愁へ看る胡天の月 啼痕断たず紅顔衰ふ 帝京遙かに望む何の処か是なる 白草黄沙渺として涯り無し 斯の身南帰の雁の 年年太液の池に飛び至るに及ばず
八○、又 三月の胡天風雪頻なり 南鴻帰り至って始めて春を知る 殷勤為に問ふ漢宮裡 恩幸阿誰か第一の人なる
八一、閨怨二首 羨み看る鴛鴦の碧池に戯るるを 臨むに慵し鸞鏡蛾眉を画くに 時に小姑と低声に語る 良人帰り至る一に何ぞ遅き 郎妾を思ふや否や妾郎を思ふ 露は空床を湿して転た断膓 錦衾角枕猶粲たるに