信失し刑(みだり)にして民漸く離る 坐ながら敗亡を待つ誰が又願はん 務めて興復を謀る未だ遅しと為さず 閑憂訴へんと欲して媒介無し 付与す一篇の艱渋の詩に 時に感じて事を撫す(執る)、感慨に堪へず。
八八、冬晩感を書す 兵禍未だ全く息まず 荒患又相追ふ 穀価利々騰踊し 世態転た険危なり 伊れ余既に災に罹り 忽ち又此の時に遭ふ 貧且つ病なりと曰ふと雖も 幸ひに猶自ら支ふるを得 茅屋吾が膝を容れ 袍吾が肌を掩ふ 銭無くして酒をるに難けれども 米ありて飢を防ぐに足る 世禄の士に非ざるよりは 安くんぞ能く斯くの若きを得ん 乃ち知る君恩の大なるを 江海も与に比する莫し 独り彼の窮氓を憐む 晨夕僅に糜を嘗む 衣を典して以て食を買ふも 寒を禦ぐの資無きをいかにせん 子を生んで挙ぐるを得ず 夫妻或いは相離る 賑政未だ至るを望まず 戸戸泣き且つ悲しむ
八九、冬日偶作 病来殊に寒を怯(おそ)る 矧はんや斯の風雪の時をや 被を擁して頻りに首を縮む 恰も蔵六(大)の亀の如し 家人時に相呼ぶも 往々聞知せず
九〇、憾み有り 鍾(鐘)山成を秉る日 ()水卻(郤)って遷に在り 江陵国に当る時 新亦沈淪す 貧賤にして交はり太だ厚く 顕達にして忽ち相分る 人情洵に変り易く 転た行路の難きを覚ゆ 深く世を閲る者の言なり。
九一、秋山某を送る。某年少にして才学あり、奸臣の為に忌まれ、遂に微罪を以て逐はる。 才子郷関を辞す 首を回らして歩み遅遅たり 密雪人蹤を没し 寒風客衣に透る 過固より宜しく省みるべく 流離未だ悲しむに足らず 窮阨の地に処るに非ずんば 悪んぞ磨礪の資を得ん 武昌には旧と曾つて遊び 名彦半ば相知る 盍簪倶に講習せば 成業自ら期すべし 狐は死して正に丘首す 君豈帰るを思はざらんや 何の日か高楼の上 再び酒巵を勧むるを得ん
九二、陰雲 陰雲天日を蔽ひ 白昼尚ほ冥濛たり 狂飆枯樹を摧き 乱雪青松を撲つ 狐狸方に勢を得 鴟梟亦空を翔る 群禽怖れて声無く 形を蔵す密林の中 連旬或いは此くの如くんば 万類荳窮する無からんや 霽を開く未だ期あらず 唯造化の功を待つのみ