九三、紛更 紛更国を乱す王安石 収斂(歛)君に媚ぶ桑弘羊 汝に憑って忽ち思ふ名利の事 一人意を逞うして万人傷つく
九四、世上 世上の熱官梳()るに暇なし 何人か又肯へて吾が廬に到る 風雪声中炉を擁して坐し 閑に看る坡老万言の書
九五、季葉 季葉澆風遍く 太和日に泯滅す 士子権詐を尚び 公然天日を欺く 櫃中文盈つるに 故らに褞袍を着て出づ 平生梁肉に飽けども 糟(糖)糠人に対して食ふ 之に居って敢へて疑はず 窃かに誇って術を得たりと為す 愚者或いは悟らざるも 達人は其の拙を愍む
九六、多病 多病の久閉子 幾歳城に入らず 友朋咫尺に在れども 疎闊参商の若し 臥して時物の変を看 飽くまで月日の行を送る 世事嗟嘆し易く 幽懐誰に向ってか傾けん
九七、十二月二十六日夜、鵜殿春風酒を載せて来訪す。此を賦して以て謝す。 錯落して合ふ所罕なり 独り自ら図書を友とす 況んや復た久しく病に臥し 転た世人と疎きをや(世人の興(た)めに疎んぜらるるをや) 茅屋常に寂蓼にして 恰も揚(楊)子の居の若し 君は真に好事者なり 酒を載せて余を来訪す 揚(楊)子雲家貧しく、酒をる能はず。好事の者あり。酒を載せて相訪ふ。
九八、戎政丁卯 戎政は細務に非ず 振作すること亦難いかな 豎儒変を知らず 俗吏偏へに財を惜しむ 惟々鼓の響を聞くのみ 空しく憶ふ将帥の材 戯なり棘門の軍 千古英雄哀しむ 戎政振はず、将材得難し。此の歎有る所以なり。
九九、仲春偶書 遙かに知る京洛梅方に発くを 北地春遅くして雁未だ還らず 料峭たり剰寒夜来の雨 今朝復た見る雪山を封ずるを