梅花将に綻びんとして復た雪を飛ばす 背に灑ぐ春寒暁更に生ず 黄鶯の籬外に囀るあるに非ずんば 誰か知らん時節の清明に近きを
一〇〇、春暁 光り輝く山上暁鐘の声 驚破す幽人春夢の清きを 余温に貪着して猶未だ起きず 閑に聴く黄鳥竹間に鳴くを
一〇一、春日偶成 拙才当に世人の嫉みを免かるべし 況んや復た病身隠淪に甘んずるをや 官海の風波嘗つて管せず 独り詩酒を将って芳春に答ふ
一〇二、命を奉じて居を移して後作る 弱齢志士を慕ひ 溝壑忘るる所に非ず 転徙遷謫に似るも 何ぞ中情を攪(みだ)すに足らん 陋室宜(宣)しく拙を養ふべく 幽郷城に遠きを喜ぶ 惟々天爵を貴ぶを知るのみ 世栄を羨むを須ひず 未だ顔子の樂しみに擬せず 最も欽ふ伯夷の清きを 卻(郤)って笑ふ賈太傅(傳) 貶黜せられて謾りに悲傷するを
一〇三、川島子樂の軍に赴くを送る 太息す斯の行卒伍に混ずるを 寒風骨をして雪紛紛 頭を回らせば越嶺頑霧横はり 眥を決すれば京城賊氛蔟(むらが)る 君道ふ邦にゆるは唯々一死のみと 誰か司命と為って三軍を御す 如今無限の傷心の事 卻(郤)って離觴に対して敢へて云はず
一〇四、戊辰初春偶作 不惑過ぎ来って又一年 頭を回らせば往事夢と茫然たり 病身国を憂ふるも補ひ為り難し 矮屋愚を守って好んで禅を学ぶ 灯火暗明たり地炉の畔 雪声淅(浙)瀝たり紙窓の前 夜寒うして客の柴戸を敲く無く 一鼎の芳茶手自ら煎(に)る
一〇五、家国 家国の将に傾かんとする支へ易きに非ず 権奸命を窃(ぬす)んで士民離る 曲突徙薪事に及ばず 焦頭爛額只斯の時のみ 五邦を去るは竟に忍び難し 三閭水に投ずるも亦徒為のみ 疾を力めて抗疏するとも誰か又諒とせん 孤臣の幽憤天の知る有り 一片憂国の心以って上帝に対すべし。