一〇六、戊辰の春作 九重幼冲にして知る所なく 姦邪を窺ひて其の私を逞しうす 兵を用うるは固より非なり已むを得ざるなり 其れ生霊塗炭の悲しみをいかにせん 反する者反に非ず賊賊に非ず 名言愚を嚇すも識者嗤ふ 若し当年の邵雍をして在らしめば 頭を挙げて亦応に児戯を嘆ずべし
一〇七、余臥蓐十三年、一旦宗社の覆に値ひ、北を奉じて以てる。 間関崎嶇として、来って戸口村に匿る。 疲困益々甚しく、復た能く為す無きなり。痛恨の余、筆を執って此を書す。 宗社忽ち覆す 孤臣恨み何ぞ窮らん 既に伍員の死を缺(欠)き 猶思ふ包胥の忠 病自ら振ひ難く 空しく屈す幽村の中 興復誰か能く任ぜん 泣血して蒼穹にぶ 壮烈鬼神を泣かしむ。
一〇八、酒井公賓の韻に次す。二首 暗に乗じて南軍要津を踰ゆ 城楼倏忽として灰塵と作る 天涯に淪落す何限の恨 千秋首を回らして霊均を憶ふ 隻手誰か応に黠賊を鏖にすべき 病身吾何ぞ奇籌を運らさん 三旬已に蟄す幽村の裡 日日肩を聳(そび)やかして故丘を望む
一〇九、又 戦陣従来危事に属す 指揮畢竟人豪を要す 庸竪計頻りに失するを奈何せん 偏に良工をして心転た労せしむ 故国遙かに望めば雲漠漠 荒村独り宿せば雨瀟瀟 細思す千古興亡の跡 灯下に慷慨して空しく刀を拭ふ 長岡城陥るの日、復を望む。宜なり、慨慷歌を作すこと。
一一〇、新秋暑さ甚し 剰暑くが如く夜未だ収まらず 遙空猶見る火雲の浮ぶを 胡枝花始めて発く有るに非ずんば 誰か知らん今日是れ新秋なるを
一一一、愚作 既に覚ゆ微涼の動くを 又看る大火の流るるを 雲色自ら夏に非ず 風声漸く秋ならんとす
一一二、又