樹竹陰森として日光を遮る 南楼昼静かにして余涼あり 荷花開き遍し小池の裡 蝶幾群飛んで香を趁ふ
一一三、筒場の諸村の戦を聞きて感あり 久しく知る世事炎涼を易ふるを 忽ち斯の間に至って感転た長し 豈料らんや少年釣遊の処 一朝にして化して戦争の場と作らんとは
一一四、感を書す 伊れ余国を離るる日 梅子漸く将に黄ならんとす 梧葉今已に老ゆるに 淹留して猶他郷 遙かに故山の樹を望めば 惨澹として陣雲横はる 兵燹天を照らして赤く 声地を動かして鳴る 収復未だ報を聞かず 覊旅偏へに情を傷む 君臣何(いつ)か返って 歓笑して酒觴を引くを得ん 老杜の気格。
一一五、又 南軍威を逞しうする日 社禝墟と為る辰 干戈方に倥偬 君臣倶に苦辛す 士心を得るに非ざる自りは 何を以てか大難を済はん 士心得失の際 須からく其の困を求むるを要すべし 口舌或いは事を害す 忠信惟々人を動かすのみ 言を寄す当路の者 青前賢を思へ
一一六、長沢伯明(はくめい)の韻に次す。二首 梧桐飄零して大火流れ 虫声喞喞として新秋を報ず 他郷病に臥す恨み千万 興復何人か妙籌を運らさん 南天を一望して高台に凭る 十世の城楼已に灰と作る 故山を指点すれば近く眼に在り 雲容樹色哀しみに堪へず 悲凉の言、多読に堪へず。
一一七、川島子樂が橡(樟)尾に在って軍を督するに寄す 君が身畢竟存亡を係く 日日兵を論じて憂慮長し 功就って他時相遇ふ処 鬢辺応に幾茎の霜を添ふべし
一一八、山水を画くに題す己巳 林外の峰巒碧空に聳え 渓辺の花木東風に笑ふ 何人か花下舟を繋いで去り 散歩詩を思ふ嫩緑の中