一四一、海上富嶽を望む 滄波一碧繊埃を絶す 嶽色玲瓏として影をし来る 個の景光何の似る所ぞ 瑠璃盤上瓊杯(抔)を倒まにす
一四二、紀州洋 日は落つ紀州州尽くる辺 朱霞閃爛として波に映じて鮮かなり 台湾呂宋何処にか在る 俊鶻高く飛んで水天に接す 眼界壮闊なり。
一四三、舟将に浪花に達せんとして、清人某に別る。 君は西海に生れ吾は東海 両日舟を同じうするも亦好縁なり 是れより悠悠手を分って去らば 知らず再会何れの年に在るかを
一四四、浪華に抵る。二首。北沢子進に寄す。
東京に流寓して久しく駐まり難し 南溟千里舟航を試む 端無くもに至る浪花の府 却って東京を望めば是れ故郷 万変に遭して尽くるに期無し 天涯に淪落するも又一奇 若し此の心をして能く素を守らしめば 人間何ぞ眉をむべき有らん
一四五、画に題す 惨澹たる凍雲四山を埋め 漁村に住して碧江の湾に在り 烟波十里糢糊の裡 幾片の蒲帆雪を帯びて還る
一四六、浪花城。二首 興亡一夢誰に向ってか問はん 惟々長江の海に入って流るるあり 嫋嫋たる西風吹いて断たず 豊公城畔暮雲愁ふ 七道の氛塵纔かに廓清 鶏林底事か復た兵を窮む 如今偉蹟何の処にか覓(もと)めん 只剰(あま)す千尋鉄石の城
一四七、又 豊公昔竜驤し 群豪悉く膝行す 星霜幾百か換はり 遺蹤唯々金湯のみ