一五四、病起 吾正に病む時花正に落ち 臥床忽ち已(巳)に兼旬に度る 今朝試みに高楼に上って望めば 満目の新林翠色し
一五五、子規を聞く 海城の新緑雨霏霏たり 久客家を思うて魂飛ばんと欲す 杜宇遊の恨みを知るに似たり 夜深うして頻りに喚ぶ帰るに如かずと
一五六、余将に高知を発せんとす。静盧斎藤公送別の作あり。次韻して以て酬ゆ。 儒謬って鉅公の知を受け 別れに臨んで感嗟何ぞ涯(かぎり)有らん 帰舟明夜阿波の海 応に高堂晤語の時を夢むべし
一五七、感を書す 夙に桑の志を抱き 天下の士為らんと擬す 時も亦相許し 凡骨を以て待たず」 簡堂其の文を称して 王陽明に似たりと謂ひ 象山其の才を愛し 奨掖して大成を望む」 久しく膏肓の厄に苦しむを奈何(いかに)せん 俊鷹遠を折るが若きあり 薬石験無く歳空しく逝き 百事差違し遅暮迫る」 進んで功名を立つる既に縁なく 退いて学術に託す又等閑 駸駸たる徂景復た惜まず 長日年の如く鶏を聴いて眠る」
一五八、感有り 昨日妄りに自大にして 囂囂として鎖(瑣)攘を唱へ 今日乃ち醒悟して 諄諄として文明を説く」 今日の是(ぜ)自ら喜ぶ可く 昨日の非曷んぞ議するを須ひん 過を知って能く改むれば正しきを失はず 幾を見て変ずれば亦是れ智なり 独り憐む一種拘儒の徒 死に至るまで空しく誦す震旦の書」
一五九、小田原より熱海に赴く途中。二首 暁に籃輿をふて海城を離る 崎嶇たる険路雲を踏んで行く 前山已(巳)に石工の入る有り を隔てて頻りに伝ふ戞戞の声 連山影は落つ海波の中 海畔の山腰小路通ず 路傍処処村家在り 是れ漁人ならずんば即ち石工