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小林虎三郎 求志洞遺稿について 凡例 このサイトの見方
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2.興学私議
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然りと雖も、今、中国人材の振はず、文武百官の其の人を得ざるを以て、域内の政すら猶且挙げんと欲して能はざる所あり。而して一旦にして悉く彼の学を収めて、以て国勢を振はんと欲す。其の成る所無きは、惑ひなきのみ。』
 何を以てかこれを言ふ。
 今夫れ変革の規模を定め、之が注釈74章程を立てて、百官に授け、以て功績を督するは、是執政の責なり。然り而して執政たる者、先王治教の法、び中国漢土古今の制と、夫(か)の当今注釈75寰区の勢、学科の概とに於て、未だ知らざる所あり。則ち規模何を以てか定らん。章程何を以てか立たん。而して功績何を以てか督せん。
 今夫れ水陸の兵を練り、緩急用を足さしめ、以て武威を張るは、是武学教長の責なり。然り而して武学教長たる者、古兵法すら且学ばず。注釈76彼の兵科は固より未だ習ふに及ばず。則ち兵何を以てか精(くわ)しからん。而して武威何を以てか張らん。
 今夫れ地力を尽し、物産を殖し、利権を制して、以て国用を足し、以て貿易を利するは是司農の責なり。然り而して司農たる者、先王注釈77理財の方、古今注釈78食貨の変と、夫(か)の外蕃物産の学、貿易の事とに於て、未だ学ばざる所あり。則ち地力何を以てか尽さん。物産何を以てか探らん。利権何を以てか制せん。国用何を以てか足らん。而して貿易何を以てか利せん。
 今夫れ学科の指帰を審(つまびら)かにし、教師の能否を察し、生徒の才を料(はか)り、之に学科(料)を課するは、是、蕃書院長の責なり。然り而して蕃書院長たる者、蕃書すら且つ読むことを能くせず。則ち指帰何を以てか審かならん。能否何を以てか察せん。学科何を以てか課せん。
 今夫れ造作の注釈79度数を詳かにし、これを百工に課して、以て器用に利するは、是、大匠の責なり。然り而して大匠たる者、注釈80彼の工科を知らず。則ち百工何を以てか課せん。而して器用何を以てか利せん。
 今夫れ注釈81聘問会盟の礼を明らかにし、外藩の情を察し、応接の間、敗事無からしむるは、是、注釈82鴻臚の責なり。然り而して鴻臚たる者、先王夷を待つの方、中国((日本))隣交の礼と、夫の外藩の注釈83政俗とに於て、未だ通ぜざる所あり。則ち応接何を以てか為さん。敗事何を以てか免れん。
 夫れ此の数官は、皆重責を当今の事に有する者なり。故に嘗て其の選を精しくし、往々格を破って之を用う。然れども猶且つ此の如し。故に其の属も亦皆其の器に当らず。夫の教師の若きは、則ち注釈84翅これを士大夫に求むるのみならず、更に注釈85侯国及び注釈86草野閭巷の間に取る。然るに侯国及び草野閭巷の士、又教養に因って材を成す者にあらず。是を以て其の学率ね皆注釈87踈繆にして、教導の任に勝ふる者も亦幾ばくも無きのみ。
 『夫れ上にしては文武百官、人材の不足、既に此の如し。下にしては侯国及び草野閭巷、人材の不足、又此の如し。是を以て変革の令下って、且に注釈88六七年ならんとし、其の効を朝野に求むるも、注釈89茫として風を捕ふるが如し。愚(ぐ)故に曰はく、当今の患は、学上(かみ)に在らずして、文武百官、率ね皆学ばず、其の職、虚たるに在るなりと。
 夫れ当今の患此の如し。果して能く学をして上に在り、文武百官をして、学ばざることあるなく、其の職をして皆為に実ならしむるにあらずんば、何を以てか、焉(これ)を済(すく)はん。然り而して、之を為すの要は、教養を広めて以て人材を育し、官制を修めて注釈90任使を専らにするに在るのみ。

注釈

74-83 84-90
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