類して之を推せば、掌る所の事、必ず其の材の長ずる所に称ひて、然る後に人材其の用を尽くすを得ざる莫し。所謂官制を修めて任使を専らにすとは是なり。
『夫れ、教養広し。人材育す。官制修る。任使専らなり。又継ぐに考績黜陟の法を以てすれば、則ち苟且無能の徒、蹤を朝に絶つ。而して官に在るの人、其の選益々(ますます)厳にして、以て政を修むれば、政挙らざる莫し。以て学を督せば、学盛ならざる莫し。以て兵を練れば、兵精しからざる莫し。以て財を理(おさ)むれば、財、殖せざる莫し。以て器を制せば、器利ならざる莫し。以て虜に接すれば、虜敢へて其の姦を逞しうせず。力行怠らずんば、人材日に以て滋々衆(ますますおお)く、国日に以て滋々富み、兵日に以て滋々彊(つよ)く、以て五洲に雄視するに足らん。然り而して虜猶蔵慝して服せずんば、則ち我が旅を整へて彼の罪を問ふ。何ぞ可ならずと為さん。
然れば則ち愚の所謂学をして上に在らしめて、而して文武百官、学ばざるある莫く、其の職皆実と為る者は、徒(ただ)に一時を済(すく)ふの術のみにあらずして、固(まこと)に国家万世富強治安の計なり。』
然りと雖も万世富強治安の計も、亦本(もと)あり。本立って、功則ち成り易し。何をか本と謂ふ。人主の学是なり。古は人主皆学ばざる莫し。蓋し其の意に謂(おも)へらく、君の職は至って重し。而して人生れながらにして貴き者なしと。故に天下の元子を以て、其の冠礼は士と同じ。其の十有五年に至れば、則ち士庶人の子と、同じく大学に入る。其の能く抑損して磨礪すること此の如し。故に其の君たるに及んでや、徳以て衆に表するに足り、明以て人を知るに足り、才以て務に応ずるに足る。是を以て政行はれ化成る。後世斯の義明らかならず、人主率ね皆学ばず。或は学ぶも、肯へて抑損せず。肯へて磨礪せず。君の職曠しき所以にして、国勢衰ふる所以なり。
今は幼主新たに立ち、至重の職に居り、非常の会に際す。誠に以て抑損磨礪して、以て其の負荷に堪ふる所以を求めざる可からず。而も春秋極めて富み、智慮未だ萌(きざ)さず。声色貨利の欲、未だ動かず。狗馬観遊翫好の事、未だ情をらすに至らず。此(これ)又失ふ可からざるの時なり。黄帝曰はく、「日中すれば必ず(かわ)かし、刀を操れば必ず割(さ)く。」と。賈誼(かぎ)曰はく、「天下の命は、太子に県(かか)る。太子の善は早く教諭すると、左右を選ぶとに在り。」と。宜しく今の時に於て、士の剛正にして学識通明なる者を選びて、之を侍講に充て、近従の臣も、亦必ず皆直諒にして文武の学ある者を選び、日に之と四子六経の道、古今治乱の跡を講じ、兼ねて蕃書を繙き、寰区の形勢、各国の政俗を探り、又彼の兵科を習ひ、其の余力を以て、諸学科に及ぶべし、則ち心、事と親しみ、識、年と長ず。数歳の後、血気方に剛にして、内を治め外を攘ひ、以て祖業の志をいにし、卓然として立つあらん。群臣の賢否、之を分って過(あやま)たず。幾務万端、之に応じて乱れず。又能く精刻画、肯へて屈(くつとう)せず。此固(これまこと)に其の効の必然なる者なり。果して然らば、之を、学の上(かみ)に在る者と謂ふ。乃ち其の極に抵り、職の至って重き者、能く其の実を窮むれば、則ち内にしては文武百官、外にしては大小諸侯、下は士庶人に至るまで、奮発激昂して、俛々焉たり。孜々焉たり。唯其の責を尽し、其の用を致すの及ばざるを是懼るるのみ。此(これ)亦勢の然らざるを得ざる者なり。 |
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