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小林虎三郎 求志洞遺稿について 凡例 このサイトの見方
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 5.重学訓蒙の序/6.重学訓蒙の後序
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 彼の西洋の諸蕃国富兵強く、威注釈2八溟に震ふ。其の自る所を原ぬるに、未だ始め凡百の学芸皆其の妙を極め、注釈3物を開き務を成すの、周ねからざる所無きに在らずんばあらず。而して斯の学、実に其の一に居る。
 然らば則ち今我、彼の長を取り、我の短を補ひ、以て我が勢を張らんと欲せば、斯の学の固より亦宜しく興すべき所に在っては、何ぞ必ずしも智者を待って之を知らん。然り而して朝野の間未だ事に斯に従ふ者有るを聞かず。吾則ち焉を憾む。
 ちかごろ偶々荷蘭人の著す所の重学訓蒙なる者を獲て、之を読むに、其の事注釈4鄙細に似たりと雖も、民生の日用に実に、殊に切要と為す。因って自ら注釈5揣らず、訳すに国語を以てし、以て夫(か)の注釈6寒郷の注釈7晩生の斯の学に志ありて、未だ洋文に習はざる者に示し、之をして其の端緒を窮ふを得しむ。
 鳴呼、本邦と漢土と亦皆斯の学無きに非ず。但、其の術太だ粗に、其の器太だ注釈8にして、遠く西洋の精、且つ備はるに及ばず。故に未だ能く大いに其の利を受くる能はざるのみ。
 今余が訳述する所、拙陋と曰ふと雖も、然れども、上にしては政に従ひ官に服するの人、下にしては豪農注釈9鉅商の徒、或は得て之を読まば、以て彼の国の重学の精備は、本邦漢土の未だ夢にも見ざる所なるを知ることに於て、家国民生に於ける裨益極めて大ならん。遂に其の理を推尋し、其の器を注釈10購造して、これを実事に施さば、則ち富強の本、乃ち其の一を得ん。豈小補と曰はんや。是則ち余も亦望む無きにあらずと云(い)ふ。
 注釈11慶応紀元乙丑、仲秋朔、雙松、小林虎、撰並書。


 六、重学訓蒙の後序
 注釈1水碾車なる者は、西洋重学器の一なり。偶々本邦に行はれて、我が長岡城東山麓の諸村、亦往々これ有り。城下の注釈2市集、注釈3賈戸無慮二千、中戸以下の婦女、率ね注釈4を作るを以て業と為す。春、雪融け日注釈5暄きをって始め、秋、陽衰へ雨多きに注釈6んで止む。其の資する所の麦粉、二十年前に在っては、則ち皆注釈7夾巷貧婦の注釈8磨轢に出づ。期既に至れば、黎明にして起き、石碾を旋転し、手少しくも駐めず。注釈9に継ぎ、以て注釈10亥夜に至る。而も一人一日の出す所、数升に過ぎず、此の若き者、蓋し数十百人ならん。
 其の後、城東山麓の諸村、水碾車を設くること凡そ十数所。専ら麦粉を作る。一碾車毎に老夫若しくは注釈11老嫗の耕織に堪へざる者一人をして之を管せしむるに、一日の出す所、斗石を以て数ふ。人、担ひ、馬、駄し、これを城下の市集に輸(いた)す。注釈12絡繹として絶えず。索を作る者、日に多きを加ふと雖も、亦未だ曾(かつ)て其の資の給せざるを患へず。
 而も彼の夾巷の貧婦、又他の工を作して以て自ら供し、其の生を失ふ者あること無し。蓋し前日は数十百人、之を為して僅かに足り、今日は十数人、之に代って余り有り。而して其の数十百人、遂に他の工を作して以て自ら供せば、則ち今日工を作す者、之を前日に注釈13視ふれば、多きこと数十百人にして、他物の生ずるも随って多し。
 夫れ、一器の偶々行はるる、其の制の未だ備らず、其の施の未だ普からざるを以て、猶且つ此くの如し。果して衆器をして悉く行はれ、其の制をして能く備はり、

注釈

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