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9.書畫帖の序/10.泰西兵餉一斑の序
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若しくは古拙、其の技(枝)の趣、固より各々異なりと雖も、要するに、亦皆性情の呈露する所にして、一々之を観れば、皆以て其の人と席を同じうして語り、樽酒歓(観)を注釈11くすの想ひあらしむ。我雄渾を喜ぶ、我冲澹を喜ぶ、我は繊穏秀にして、復た其の余を顧みずと謂ふが若きは、則ち猶、紅紫を愛して而して黄白を厭ひ、怪特を取って而して蕭淡を舎つるがごとし。其の隘も亦甚し。豈又共に風雅の道を語るに足らんや。余の此の説を持するや久し。新斥坪井生、其の注釈12むる所の帖を持ちて来り、余に注釈13弁言を注釈14謁ふ。因って書して以て之を与ふ。注釈15丁卯の仲春七日。


 一〇、注釈1泰西兵餉一斑の序
 将良く、兵精しく、器利(と)ければ、以て戦ふ可きか。曰く「食未だ足らざるなり。」と。戦って食に乏しければ、良将も其の謀を運(めぐ)らすこと能はず、精兵も其の力を施すこと能はず、利器も其の用を致すこと能はず。是の故に善く兵を用ふる者は必ず其の食を足らさんことを務む。昔注釈2漢の高祖、出でて注釈3項羽と相持すること数年なり。注釈4蕭何留って注釈5関中を治め、其の注釈6粟を輸(いた)して以て供給す。高祖終に因って項羽を亡して以て天下を取るを得たり。乃ち何(か)の功を以て第一と為し、之を攻(功)城野戦の上に置く。豈戦は食を以て重しと為すの故を以てにあらずや。後世此を詳かにせず。師の外に出でて食を内に仰ぐや、内の注釈7度支惟々財を惜しむを知りて、供給太だ薄し。兵卒飢ゑ疲れ、遂に以て注釈8敗衂を致す者、諸(これ)を史籍に観るに、何ぞ啻に一二のみならんや。
 蓋し、事の至労至難なる者は兵に踰ゆる莫し。至健至康なる者にあらざるよりは、之に任ずる能はず。而して兵の其の健康を保つ所以の者は唯食のみ。三日食に乏しければ、必ず其の健康を失ふ。夫れ役の至労至難の事を以て、其の供給を薄くし、之をして其の健康を失はせ、以て注釈9糜爛の惨を(ふ)ましめて、而して国又其の禍を承く。吁(ああ)亦不仁なるかな。吁亦不智なるかな。
 近今泰西の各国深く此に察することあり。乃ち其の兵卒をして甘飽して以て其の健康を保たしむる所以の者、其の詳愁を極む。洵(まこと)に和漢古今の未だてあらざる所なり。之を彼の国の注釈10兵志に考ふるに歴々として見るべし。注釈11属者余、荷蘭礮隊(はうたい)加(カ)毘(ピ)丹(タン)薄(バ)魯(ロ)印(イン)著す所の従軍必携を購ひ獲て之を読むに、内に兵餉篇あり。語簡なりと雖も、而も夫(か)の兵卒をして、甘飽して以て、其の健康を保たしむる所以の者、亦以て其の概略を観るに足る。因って摘んで之を訳し、名づけて泰西兵餉一斑と曰ふ。以て子弟の兵を学ぶ者に授く。而して諸々の観んことを請ふ者にも、亦敢へて隠さず。
 嗚(鳴)呼、泰西の兵術は既に注釈12宇内に冠たれば、則ち、我が列藩の軍政を経理する、固より専ら彼の制に傚(なら)はざるを得ず。乃ち兵餉の一事も亦彼の為す所を取って以て注釈13参酌するにあらずんば、則ち必ず其の宜しきに適(かな)ふ能はず。然らば則ち此の書の載する所の若き、出でて兵に将たる者、固より知らざるべからず。入って供給を管する者、尤も知らざるべからず。此を知らずんば、兵卒をして、甘飽して以て其の健康を保ち、糜爛の惨を免れて、禍をして其の国に及ばざらしめんと欲するも必ず得べからず。而して彼の不仁不智の責、又悪(いづく)んぞ得て而して之を注釈14れんや。

注釈

9.書畫帖の序11-15 10.泰西兵餉一班の序1-9 10.泰西兵餉一班の序10-14
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