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37.赤穂四十七義士の手簡の跋/38.顔魯公の争座帖に跋す
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 余曰く、義士の忠烈は、天下の嗟称する所、而して此の巻は乃ち其の精神の寓する所。又能く全員を収むれば、則ち珍賞すべきのみ。居士能く多財を散じて、以て注釈3慕の情を尽くせば、則ち其の義士に於けるや厚し。是れ則ち悪んぞ黙して止むべけんやと。
 然りと雖も、義士の事は、固より余の言を待つなくして、注釈4居士の挙、亦誉を天下に求むる所以に非ざるなり。則ち余が、其の自ら警しむる所以を言ひて、これを居士に問はんか。
 夫れ物は徒らに発せず、必ず養って後発す。故に忠臣烈士の患難に臨み、危疑に処して、其の心を二にせず、死して悔いざる所以の者は、豈奮激勉励して、以て一旦に強持するの能くする所ならんや。蓋し、未だ始より、其の素養する所に由らずんばあらざるなり。
 是の故に、君に事へて心を尽さざる者は、未だ以て必ずしも其の義に死す可からざるなり。親に事へて力を尽さざる者は、未だ以て必ずしも其の義に死すべからざるなり。注釈5友を兄弟に尽さざる者は、未だ以て必ずしも其の義に死すべからざるなり。信を朋友に尽さざる者は、未だ以て必ずしも其の義に死すべからざるなり。善を好んで勇ならざる者は、未だ以て必ずしも其の義に死すべからざるなり。義利の取舎、精明なる能はざる者は、未だ以て必ずしも其の義に死すべからざるなり。彼の注釈6機変の巧を為す者、悪んぞ其の節を守るを望まんや。道、義理を悪む者、悪んぞ其の節を守るを望まんや。惰慢自ら許す者、悪んぞ其の節を守るを望まんや。軽卒人に交はる者、悪んぞ其の節を守るを望まんや。苟くも世に容れらるる者、悪くんぞ其の節を守るを望まんや。注釈7沾々自ら喜ぶ者、悪んぞ其の節を守るを望まんや。故に真の志操の堅脆は、已に平生無事の時に決す。唯々人之を或いは弁ずること莫きのみ。
 夫の四十七士は、其の性質才器、固より注釈8軒輊する無くんばあらず。然れども其の上なる者は、既に君に事へて能く心を尽くし、親に事へて能く力を尽くし、友(いう)を兄弟に尽くし、信を朋友に尽くし、善を為すに勇に、義利の間、取舎を繆らず。其の下なる者と雖も、亦機変の巧を為さず、道義理を好み、惰慢自ら許さず、軽卒人に交らず、苟くも世に容れらるるを恥ぢ、沾々自ら喜ぶを悪むや必せり。然らずんば、其の慷慨壮烈、義を践んで疑はざること、豈能く斯くの若くならんや。
 今此の巻を観るに、率ね皆一時の応酬に係ると曰ふと雖も、其の美なる者は、固より注釈9勁荘重、大いに観るべきあり。其の美ならざる者も、亦朴質を失はず、絶えて軽靡の能無し。則ち益々以て其の之を養ふこと素あるを証するに足れり。
 余故に謂へらく、「義士を注釈10慕尚する者は、宜しく此れを以て己に体し、而して後に可なるべし。乃ち惟々義士の徒たるを得るのみならず、古の君子たるを求むるも、亦此れに外ならざるなり。然らずんば、仮令、口を極めて注釈11頌賛すとも、終に虚言たるを免れず、義士に負く者多し。可ならんか。斯れ余自ら警しむる所なり。居士以て如何と為す」と。居士曰く、善しと。遂に余をして其の後に書せしむ。
 嘉永四年辛亥、 注釈12菊月、 小林 虎、 子文。


 三八、注釈1顔魯公の注釈2争座帖に跋す
 注釈3安禄山の未だ叛かざるや、公独り之を知り、窃に守禦の計を為す。則ち其の識遠し。既に叛くや、首として大義を唱へ、孤城に拠りて以て天下の兵を起す。

注釈

37.赤穂四十七義士の手簡の跋3-8 37.赤穂四十七義士の手簡の跋9-12 38.顔魯公の争座帖に跋す1-3
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