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48.省けん録の後序/49.万国奇観の後序
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 鳴呼、先生其の人を以て、前後遭遇の艱、且つ惨なること此くの如く、竟に一たびも時と合って其の用を試みるを獲ず。蒼天茫々たり。其れ之を何とか謂はん。
 此の書は乃ち注釈13甲寅獄中に作る所、敢へてち人に示さず。世或いは謄写して以て蔵する者あり。蓋し亦甚尠し。頃者、注釈14令嗣子友、注釈15海舟君に請うて、将にこれ注釈16を梓にみて、以て其の伝を広うせんとし、虎に命じて一言を題せしむ。虎や嘗つて教を先生に受くと雖も、質弱く才劣り、加ふるに善く病むを以て、注釈17年強を踰えて、志業未だ成らず、愧を負ふこと亦已に深し。而るに今乃ち遺編に題するは、殊に敢へて当る所に非ず。然りと雖も、先生の学は特(ただ)に東西をせ、文武を兼ぬるのみならず、識見超卓、議論注釈18根核、以て一時に注釈19泰斗たるに足る。即ち平素道を味ひ心を養ひ、確然として得るあり。尤も注釈20夷の思ふ所に匪ず。是(ここ)を以て身注釈21の中に在りと雖も、猶能く外には則ち益々家国の患を憂へ、内には則ち益々注釈22進脩の功を勉め、命を致して志を遂げ、困(くるし)んで其の注釈23亨る所を失はず。之を夫の学浅く心粗く、徒らに気を尚びて慷慨し、流れて注釈24忿戻矯撃を為す者に視(なぞら)ふるに、亦自ら未だ日を同じうして語るべからざる者あり。而して唯々此の書の録する所のみ、以て之を徴するに足る。苟くも此の書の其の伝を広うせざるや、其の患難に行ふの実、以て天下に白(あき)らかにする無く、後の其の風を慕ふ者、又何を以て之を千載の下に詳かにするを得んや。
 先生の著作頗る富む。皆刻して以て伝へざるべからず。而して子友の独り此の書を先とする意、蓋し此に在り。是れ則ち虎が輩に在っては、固より当に力を竭して賛助すべく、惟々其の或いは及ばざるを恐るのみ。乃ち其の命ずる所も、亦辞せんと欲して能はず。因って先生の始終履歴の概(慨)を述べて、之を其の後にき、読者をして考ふる所あらしむ。
 明治四年歳辛未に在り。注釈25嘉平の月朔。門人越後の小林 虎敬跋。


 四九、注釈1万国奇観の後序
 向に余郷に在って、久しく病に臥す。適々亡友注釈2鵜殿春風、宦遊に倦みて帰り、母を養って閑居す。時、厳冬に属し、注釈3短景既に暮れ、注釈4狂飆怒号し、寒威骨をす。忽ち門に抵りて、注釈5簑雪を払ふ者あり。出でて之を迎ふれば、則ち春風なり。乃ち之を書楼に延く。坐、纔(わづか)に定る。春風則ち曰く、子未だ欧州近日の新報を聞かずや。注釈6普、墺と戦ひ、大いに之を破り、注釈7北日の各国皆普に属せりと。乃ち炉灰に画きて、略々中欧の地勢を作し、指点して以て示して曰く、此れ北日なり。此れ法国なり。注釈8普、既に北日を管すれば、則ち注釈9法と壌(壊)相接せり。而して法帝注釈10路易拿破侖は、注釈11雄鷙驕傲、人の上と為るを好む。普の強盛にして己(巳)に迫るは、固より悦ばざる所、必ず応に徒らに已(巳)まざるべし。則ち欧州の騒擾、是より始らんと。
 因って遂に著す所の、万国奇観を出し、余に属して注釈12刪潤せしむ。余受けて之を閲すれば、則ち内に路易拿破侖の記あり。其の末に乃ち曰く、侖の動静、欧州の列邦皆目を属す。後来何事をか作し出し来らん。当に他日史籍の出づるを竢ちて之を考ふべしと。

注釈

48.省録の後序13-20 48.省録の後序21-25 49.万国奇観の後序1-6 49.万国奇観の後序7-12
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