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稿本略註国訳求志洞遺稿 文 乾
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稿本略註国訳求志洞遺稿 詩 坤全
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小林虎三郎
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求志洞遺稿について
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58.子英に与ふ 通称雄七郎、実弟に係る/59.子英に与ふ
日暮熊谷駅に達し、小松屋某家に投宿す。此の日、暑熱遽に進み、午後三四時の間、車上の困苦言ふべからず。夜に入っても、熱猶ほ収まらず、加ふるに
逆旅
雑
なるを以てす。煩悶堪へ難し。眠りを得ること纔に十数分の時間のみ。
十五日、朝、四時三十分発す。午時、新町駅に
す。三時、高崎に達し、千歳屋某を訪ひ、
野村氏の書を致す。主人
款接し、強ひて吾が
儕を留めて宿せしむ。此の日、暑気の昨の如しと雖も、昨に比すれば、風あり。且つ時時
陰翳す。故を以て稍々堪へ易きを覚ゆ。夜間亦
閑広の室に臥し、些かの
喧聒なし。因って頗る眠るを得たり。
十六日、朝、五時。千歳氏を辞し、三里にして将に柏木村に達せんとし、渓橋を渡る。車夫失誤し、右輪橋板外に迸り、車忽ちに覆し、吾乃ち渓中に墜つ。但々渓底細沙にして又水無く、毫も損傷無し。是を幸と為す。柏木以往、道頗る険にして、車、便ならず。因って馬を
うて乗り行く。未だ百歩ならざるに、
肚帯弛び、鞍随って傾き、吾、復た地上に落つ。但々幸に馬の性、沈重にして、毫も驚かず。吾も亦
夷然として動ぜず。故を以て患害を受けず。鳴呼、
霎時の間、車より墜ち又馬より落つ。奇拙も亦甚し。真に一笑を発すべきのみ。
峰林の茶店に小憩し、水沢村に
し、午後二時伊香保に達し、木暮八朗の家に投宿す。峰林より伊香保に至る間、山上眺望絶佳なり。鞍に拠りて四顧すれば、
上毛武蔵に論なく、
関左八州、殆ど目下に在り。富嶽又
孱顔を雲間に現し、吾に向って笑ふ者の若し。快言ふべからず。独り病憊の極、文思衰落して、好句の以て佳景に答ふる無きをいかにせん。徒らに愧嘆するのみ。
某、数日、暑に苦しむこと、前に言ふ所の如しと雖も、
体気は則ち却って佳にして、食機稍々振ふ。旅行の人に可なる、此くの若き者あるか。茲より数週間、日日山林の間に
し、鉱泉に於いて且つ浴し、且つ飲む。勉めて怠らずんば、則ち或いは少しく其の効を得んか。幸に過慮する勿れ。纔に
行李を卸して、急に此の紙を裁す。一一なる能はず。余は
後鯉に付す。酷暑多愛せよ。草々。
五九、子英に与ふ
十九日の書来り領す。
等履況
佳裕。魁郎病患亦殆ど
崔然たりと。喜ぶべし。喜ぶべし。
遞致せる
子猛の六月
念八の書、併に
示及せる加藤生の本月三日の書中に言へる所を見る。因って彼の地の実況を詳らかにするを得たり。
多荷、多荷。
子乗通称大三実弟に係る。子猛共に苦戦恙無し。加藤生以下の壮士輩亦皆殺(投)傷(しやう)を受けず。甚だ
緬想を慰す。官軍倍々奮闘し、賊勢倍々
窘縮す。平安必ず近きに在り。則ち吾が儕衰翁、応に枕を高うして臥するを得べし。何の幸ひか之に如かん。
某、
浴来、日猶浅し。効否未だ知るべからず。然れども、亦悪非なからん。幸に念に懸くることを休せよ。
此の地、都下に比すれば、暑さ甚だ薄し。昼間八十五六度に過ぎず。夜に入っては、絶えて暑を病まず。蚊無し。
を設けず。是れ病者の為に尤も喜ぶ所なり。
注釈
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58.子英に与ふ 通称雄七郎、実弟に係る9-18
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58.子英に与ふ 通称雄七郎、実弟に係る19-26
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59.子英に与ふ1-12
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